小泉首相が、戦争を二度と起こしてはいけないという気持ちで、あの無謀な戦争を始めた東条英機首相が祀られている靖国神社を参拝するというのはまったくの論理矛盾である。
戦争を起こしてはいけないという気持ちで参拝すべきなのは広島・長崎の原爆で亡くなった霊などに対してであり、靖国を参拝するならば、「もう一度米英と戦います」といって参拝するのが論理的一貫性をもつ行為であろう… 梅原猛は学者としては稀有な人材だ。読ませる文章を書く。気持ちがこもっている。情念のひとが勉強をするとこうなってしまった、という感じ。このコラム、非常に面白いコラムである。 政治家の言葉は、ソフィストのように相手をうまく説得するだけで、真理かどうかは問われない。冒頭の引用はそのような顕著な事例として挙げられたものだ。 プラトンは、20歳のときにソクラテスに出会い、政治家志望を捨てた。ソクラテスのようになろうとした。28歳のときに、アテナイの民主主義者によって、師匠は殺される。三百年の歴史を誇るアテナイの民主主義が、もっぱら真理を語る愛知者であるソクラテスを殺した。 真理の言葉と説得の技術。アテナイの民衆は説得の技術によって動かされる。真理の言葉は届かない。民主主義が衆愚政治に堕した。最後には、プラトンは、哲学者が王である国家を理想の国家であると考えた。結論は、確かに突拍子もないものだが、プラトンの憂慮は笑えない。アテナイの民主主義はマケドニアの軍事力によって崩壊した。民主主義の腐敗も原因のひとつだ。 アテナイの滅亡は他人事ではない。たとえば、梅原が挙げるもうひとつの事例、「自衛隊が活動しているところは非戦闘地帯だ」という言葉。これはイラクの自衛隊の安全をどうやって確保するかというまじめな議論を封殺する。自衛隊を根本のところで辱める言葉であって、真理の言葉とは対極にある。自国の軍隊を言葉でもて遊んでいるようでは、歴史は繰り返さないとは限らない。 梅原のこのコラム、今回もまた読み応えがあった。梅原も随分年老いたが、まだまだ頑張ってほしい。
by Yasuo_Ohno
| 2005-02-01 21:16
| テーマ2:リベラル
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