この作品は小津安二郎、最晩年の作品である。「真の芸術はもっと高いものであるはずであり、真の芸術家は芸術に対してはにかみをもっているものだ」。このように小津は芸術に対して真に微妙な距離を置いていた。
もちろん、自らの映画作家としての地位をおとしめるためではない。いわばカッコつきの芸術であることを強調することによって、「芸術」としての映画の独自性を主張するのだ。すべての映画が芸術ではない。映画はそのような性質のものではないのだ。 映像で虚構を組み立てるにはペンや絵の具と違って途方も無い資金が必要だ。このことがどのような意味をもつのか。小津はこのことを十分理解していた。 現実には大掛かりなシステムならびに起業家精神が映画づくりのもう一本の柱だ。このように映画は生まれながらにして原罪を抱えていて、経済効率との葛藤のなかでよい作品をつくることが要請される。大勢のひとに観てもらうことで成立する大衆芸術なのだ。 小津は映画に形式を持ち込むことによって経済性を確保した。これこそ大衆に迎合することなく彼のペースで作品を作り続ける唯一の方法であった。戦後、小津の作品はどれも似たような構成であったが、それさえもこうした彼の哲学に基づいたものだ。 思えば、同じような作品を作り続けることは大変なことに違いない。小津は生涯独身で通したことで知られるが小津にとって映画はひとり娘なのだ。娘に対するような気持ちで作品を世に出したに違いない。 秋刀魚の味 ★★★★ 監督:小津安二郎 製作:山内静夫 脚本:野田高梧/小津安二郎 撮影:厚田雄春 音楽:斎藤高順 美術:浜田辰雄 編集:浜村義康 録音:妹尾芳三郎 スクリプター:小尾健彦 照明:石渡健蔵 出演:笠智衆、岩下志麻、三上真一郎、佐田啓二、岡田茉莉子
by Yasuo_Ohno
| 2005-02-18 22:45
| シネマンガ研究会
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