ひとつの偶然と偶然がもたらすひとつの帰結。偶然は与えられたものとして存在し、いかなる解釈をも拒絶する。ぼくらに許されているのは偶然を繋ぎ合わせて必然の連関を見出すことだ。
しかし、そうした作業は偶然の持つ劇的なまでの残忍性をいくらか軽減することはあれ、結局なぐさめにすぎないことは明らかだ。なぜなら、偶然は物語の中に位置づけられないことがその本質であり、必然の連関を云々できないことこそ偶然の偶然たる所以だからだ。 はるか彼方からそれは突然やってくる。そしてぼくらはその帰結に対して「運命」という名前を冠し、畏れと祈りを捧げるのだ。 若き日の情熱が二人に癒すことのできない傷跡を残す。ときにそれは生命を投げ打つほどの情動を催す。不幸にして生き長らえたときに誰もが抱える可能性としての再会。それを媒介するのが他でもない偶然だ。 あの世の存在を信じ、この世界で果たし得なかった夢をわずかな希望として携え、ひたすら時を待つひと。一度舞台を退いた役者は自らの老いた姿かたちを人前に晒すことをよしとしないように、彼女は二度と彼の前に姿かたちを見せるつもりはなかった。同時にそれは破局を回避するための内面化された物語なのだ。 「二人で暮らすことは息苦しい。かといってひとりでは生きられない」。過去を忘れるために現在を生きる二人は決して出会ってはならなかった。ところが偶然が均衡を破り、二人を破局へと導く。若き日の熱情が甦り、一瞬の絶頂のためにすべてを無にするのだ。 残されたものは彼らが選ばれたものであることを宣言し、開け放たれたパンドラの空箱に封をして、二人の記憶を未来永劫、閉じ込めてしまう。かくして、この世から希望は失せ、生活に耐える老人の顔をした若者が街中を埋め尽くす。 隣の女 ★★★1/2 制作:1981年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 原案:フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン、ジャン・オーレル 脚本:フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン、ジャン・オーレル 撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー 音楽:ジョルジュ・ドルリュー 美術:ジャン・ピエール・コユ・スヴェルコ 編集:マルティーヌ・バラーク 録音:ミシェル・ローラン 製作進行:アルマン・バルボール 出演:ジェラール・ドパルデュー、ファニー・アルダン、アンリ・ガルサン、ミシェール・ボームガルトネル、ヴェロニク・シルヴェル
by Yasuo_Ohno
| 2005-03-24 22:10
| シネマンガ研究会
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