ローズマリーの赤ちゃん

オンナは生命より大切な胎児が秘密結社に狙われていると信じている。

しかし、それが事実だということを誰も信じてくれない。逆に、精神に異常を来たしていると決めつけられる。オンナは叫ぶ。「信じて…これは陰謀だわ!」。精神科医が呼ばれ、彼女に安定剤を打つ。ところが、もし彼女のいうことが事実であったとしたら…。



一般に秘密結社による陰謀は現実のものとは理解されない性質のものだ。しかるべき文脈において初めて理解され得るものだから、通常、傍目には妄想にとりつかれているとしか思えない。妄想に陰謀はつきものだが、妄想にすぎないと思っていたことが実は事実であったと分かったときの驚きは大きい。

この作品は、妄想にとりつかれたときの恐怖と妄想の内容が事実であったときの恐怖という二重の恐怖を扱っている。たとえば、スターリン時代の粛正などは根拠のない妄想が引き金であった。血で血を洗う恐怖の連鎖は歴史をひも解けば結構似たような例がある。いわゆる恐怖政治につきまとう影である。

殺らなければ殺られるという恐怖がいつしか妄想となって権力者にとりつき、平和で友好的な関係、すなわち言葉によるコミュニケーションが不可能になる。それは計画的なものではなく、状況的なものだ。ところが、ナチのユダヤ虐殺はこれとは性質が違う。ナチのユダヤ人虐殺は当初より予定されていた陰謀であった。

ナチの収容所のユダヤ人は機械的に「処分」されるまで、悪い予感に怯えながらも、現実か妄想か自分では判断できない状態、想像を絶する心理的緊張に耐えた。半信半疑の揺れる気持ちを抑えながらシャワー室へと向かう。シャワー室で毒ガスを浴びたときにすべてを了解するがもはや手遅れである。

この作品の主人公が置かれた状況はまさにこれと同じである。

ラストで客観的な状況が明らかにされたときの衝撃は言葉に尽くせない程。まさに大どんでん返しだ。ポランスキーは自らナチの収容所で経験した恐怖を映像によって再現しようとした。画面から伝わってきた、何かを訴えるような悲痛さは生と死の極限状況を実際に味わったポランスキーならではのものである。

耳をすましたとき彼が経験した絶望的な恐怖を何とか表現せねばという魂の叫びが聞こえてこないだろうか。

ローズマリーの赤ちゃん  ★★★1/2

製作年:1968年
製作国:アメリカ
製作:ドナ・ホロウェイ
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
原作:アイラ・レビン
撮影:ウィリアム・A・フレイカー
音楽:クリストファー・コメダ
出演:ミア・ファロー、ジョン・カサベテス、モーリス・エバンス、ルース・ゴードン
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by Yasuo_Ohno | 2005-04-10 12:51 | シネマンガ研究会
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