エル

ジャック・ラカンの講義で題材として使用されたというブニュエルのメキシコ時代の作品。

赤ん坊ならともかく、大の大人のオンナを独占したいという欲望が度を過ぎたとき、それは狂気に他ならない。オンナはおもちゃか何かのような所有の対象ではないので、本来独占を云々すること自体が、誤った女性観にとりつかれているのだ。





誰しもこのようにむきになってオトコを攻撃してしまうのだが、それは何故なのか、非常に興味深い。ラカンの講義の内容は知らないが、偉大なるラカン先生もブニュエルの仕掛けにかかったに違いあるまい。

妄想にとりつかれるというのは現実を受け入れられないからだ。この作品のオトコの不幸は現実のオンナを受け入れることができずに、「あるべき姿」に縛られていることにある。この作品の優れたところは誰もが陥りやすい妄想をとりあげていて、その妄想が一線を越えて病に至るまでの過程を入念に描いているところだ。

最終的にキリスト教によってオトコの魂の救済がなされるとしたのはイエズス会の家庭に育ったブニュエルらしい。ここでオンナを信じられないオトコを神を信じられないブニュエルにダブらせてみるのはあながち的はずれではないと思う。

ブニュエルは技術的なスタイルにこだわらない作家だ。特定のテーマをとことん追求するタイプのひとだからぼくらをびっくりさせることがままある。この作品でもラスト近くでオトコの妄想を無造作に映像化して、「相変わらずシュールだなぁ」と例によって例のごとくぼくは唖然としてしまった。

とはいえ正面から真面目に狂気に取り組むブニュエルの姿勢は高く評価すべきだ。



エル  ★★★1/2

製作: 1987年メキシコ
監督: ルイス・ブニュエル
原作: メルセデス・ピント
脚本: ルイス・ブニュエル、ルイス・アルコリサ
撮影: ガブリエル・フィゲロア
音楽: ルイス・ヘルナンデス・ブレトン
出演: アルトゥーロ・デ・コルドヴァ、デリア・ゲルセス、アウローラ・ワルケル
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by Yasuo_Ohno | 2005-02-10 23:45 | シネマンガ研究会
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